提訴の経緯、曖昧な答え 目黒区 被災者追い出し裁判〈2023年11月5日号〉

 東日本大震災の津波で自宅兼事業所を失い、宮城県気仙沼市から目黒区の応急仮設住宅に避難した女性(69)が、支援打ち切り後の家賃820万余円の賠償を区から請求されている裁判で、提訴の決定に関与した目黒区住宅課長の証人尋問と、被告本人尋問が10月23日、東京地裁(金澤秀樹裁判長)で行われました。

報告集会で裁判の内容を説明する山川弁護士=10月23日、千代田区

住宅課長を証人尋問

 提訴に至る経緯を知り、被災者の住宅支援を判断する立場の現職員が法廷で供述する重大な局面を迎え、傍聴席数以上の人が集まりました。

 女性は被災後、夫のがん治療のため、気仙沼市の紹介で友好都市の目黒区に避難。区が指示した区民住宅に入居しました。2018年3月末に宮城県の応急仮設住宅打ち切り決定を受け、同区も住宅支援の打ち切りを通知。女性は、余命宣告された重篤な夫の看病をしながら、入居時には知らされていなかった家賃19万2500円の区民住宅から、低廉な区営住宅への転居支援を望みましたが、かないませんでした。

 同年6月、区に医師の診断書や治療費の明細を提出し、退去の猶予を求めたものの、区は入居の継続を認めず、10月に夫が死去。この間、区営・都民住宅への応募を続けていましたが当選せず、2021年7月に提訴されました。

 証言台に立った同課長は、2019年4月に課長就任。証人尋問は、①住宅課長就任時、女性が退去できない理由についてどのように引き継いだのか、どれだけ事情を知った上で提訴したのか②支援打ち切り後、区は災害救助法にのっとり、被災者に対してどのような住宅支援の取り組みを行ったのかーを軸に進みました。

「適用は県が」

 同課長は、女性の夫が大変な状況にあり、転居が難しいことを担当職員らから口頭で引き継いだことを証言。提訴検討時の調査に関しては「ご自身のことを調べることはできない」など、曖昧な供述にとどまりました。

 支援打ち切り後の区の対応について、同課長は「災害救助法の適用については、宮城県がしている」と発言。被告代理人の山川幸生弁護士が、内閣府防災担当が公表している「被災者の住まいの確保に関する取組事例集」を参照したのか尋ねると、「わたくしどもには関係ないと認識している」と答えました。

 閉廷後の報告集会で、山川弁護士は同課長から具体的な証言はなく、「細かく調べずに提訴しているとしか思えない」と指摘。被災者支援について、区には責任がないという姿勢を見せた供述は問題だと強調。「広域避難の枠組み自体が崩壊してしまう。許されるわけがない」と憤りました。

費用は宮城県負担

 「めぐろ被災者を支援する会」の調査で新たに浮上した訴訟費用問題について、会事務局のメンバーが報告。訴訟費用6万5000円は災害救助法の求償(賠償や償還を求めること)の仕組みを利用し、区が都を介して宮城県から得ていたことが判明しています。

 会は追及を深めるため、目黒区監査委員に住民監査請求しましたが、「区に損害は与えていない」との理由で却下。都への情報開示も、不存在として不開示決定を受けました。

 宮城県に情報公開を行ったところ、目黒区住宅課や内閣府防災担当と電話でやり取りした記録が存在。記録によると、本件提訴の1カ月前、区住宅課が宮城県に訴訟費用の負担は求償対象になるのか確認。県が内閣府に問い合わせたところ、「訴訟を行う上で考えられる必要最低限の費用は求償してよい」との回答を得ており、目黒区以外の自治体でも、宮城県が訴訟費用を負担した事象が明らかになりました。  

 会は「住まいは人権」であり、被災者を住宅から追い立てる自治体や国の行為を許さず、追及を続ける構えです。

東京民報2023年11月5日号より

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