憲法記念日インタビュー 江戸文化研究者 田中優子さん  

 個々人が自分の憲法観を 学術会議任命拒否 学問の軽視、恥ずかしい

 ―昨年10月、菅首相による、学術会議の任命拒否について、法政大学総長の立場でメッセージを発せられました。

たなか・ゆうこ 1952年生まれ、神奈川県出身。法政大学卒。法政大学社会学部教授、社会学部長等を経て、2014年から2021年3月まで法政大学総長。現在、法政大学名誉教授。著書に『江戸の想像力』『江戸百夢 近世図像学の楽しみ』など多数

 私は日本学術会議「外部評価有識者」の座長です。批判や評価をする立場として、学術会議の活動を見てきました。軍事研究への姿勢、環境問題や生命科学の問題など、世界の科学者が抱える問題に、メンバーは見返りなどほとんど無い中で、真摯(しんし)に対応しています。なぜなら世界の学術団体における日本の代表として、明確な姿勢を示さねばならないからです。

 (任命拒否は)その実際を知らない政治家の勘違いに基づいた判断だと思いました。その背景には、無知からくる学問・思想の軽視があります。その軽視を法政大学の卒業生(菅首相)が行ったことが大変「恥ずかしい」と思いました。

 このことによって法政大学の研究教育の質や知性を推し測られることへの危機感がありました。法政大学の代表および卒業生や教員たちが、首相とは異なる視野をもち、異なる地平にいることを、できるだけ早く発信しなければならないと思いました。このメッセージ内容は、当時の常務理事、副学長たちも共有しています。

 さらに、このような政府の判断を放置していては、学問の自由、表現の自由はなおざりにされます。研究者である教員や大学院生、自由な学びをしなければならない学生たちを、守らねばならないと思いました。

個人を人に入れ換えた自民案

 ―学術会議の問題も含めて、安倍政権、菅政権のもとで憲法をめぐる危機が進みました。

 自民党の憲法改正草案は2012年4月に決定したもので、9年たった今でも党の重点政策のひとつです。誰の政権であろうと、自民党政権である限り、改憲は方針です。安倍さんも菅さんも、自民党総裁として間違ったことを言っているわけではありません。

 現在の憲法は前文が3つの段落でできており、主権が国民にあること、日本国民は恒久的の平和を念願していること、政治道徳の法則は普遍的であることを述べています。しかし自民党憲法案はやはり3つの段落からできていますが、それは天皇を戴く国家であること、国民は国と郷土を自ら守らねばならないこと、憲法制定の目的は国家を子孫に継承するためであること、を述べています。そして現行憲法の第一条は天皇を日本国の象徴としていますが、自民党改正草案は天皇を元首としています。

 主権者の多くが自民党候補者に投票すれば自民党は第一党になり、自民党から首相が出ます。そうである限り、自民党の憲法改正草案が新憲法になる可能性は、これからも常にあるのです。

 ―コロナ禍は、日本国憲法の掲げる基本的人権などの重要性を改めて浮き彫りにした面もあると思います。

 自民党の憲法改正草案は、憲法13条から「個人」という言葉を削除しました。「人」に入れ替えています。「公共の福祉」という言葉も「公益及び公の秩序」としました。

 憲法はそもそも、国民が制定して天皇、大臣、公務員に守らせるものです。その国民とは、人権を絶対的に保証された個人一人ひとりなので、個人は公共の福祉つまり他の人たちの幸福を犯さないよう注意しながら、あるいは他の人たちの幸福を守るために、国家と正面から向き合って、国に憲法を守らせるのです。

 個人に基づいた人々の幸福を、公の利益・秩序という言葉に置き換える発想が、コロナ禍でも鮮明に見えました。経済優先、五輪優先、企業側に立った非正規社員問題の放置などです。

記念日こそ全体を熟読して

 ―憲法大行動に現地やリモートで参加する人たちにメッセージをお願いします。

 憲法記念日にこそ、憲法を熟読してください。そして、自民党の憲法改正草案と比較してください。なぜなら、私たちのこの時代に憲法改正が提案されるとしたら、現実的には、すでに出来上がっていて、自民党の重点政策になっている自民党憲法改正草案に即した提案になる可能性が極めて高いからです。

 九条だけでなく、前文を含めた全体の比較が必要です。全体の価値観、人間観、国家観が、現行憲法とは全く異なるからです。

 特に「個人」が「人」と書き換えられていること、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」と書き換えられていること、天皇が象徴であるとともに「元首」になるとされていること、「自衛隊の違憲状態を解消するために自衛隊を明記すべき」と安倍首相は言っていましたが、改正草案では「国防軍」となっていること、そして「緊急事態宣言」という今や私たちが慣れてしまった言葉は、改正草案に一章分を付け加えた「緊急事態条項」の中の言葉であることなど、多くの気づきがあるはずです。

 その読解の中で、それぞれがどのような憲法を理想とするか、個々の考えを明確にしておく必要があります。なぜなら改正草案の96条では、現行憲法の「総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し」が、「議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し」と変わることになり、この改正が通れば、他の条項の改正は極めてハードルが低くなるからです。

 いつ何が起こっても、それぞれが自分にとっての憲法観を持っていれば、「基本的人権、主権在民、平和主義、自衛隊のあり方など、何も変わりません」という自民党議員や首相の言葉に言いくるめられることなく、自らの判断で投票できます。

 政治の私物化と、立憲主義を無視した暴走が相次ぐ安倍政権、菅政権のもと、憲法をめぐる危機が続いています。憲法記念日となる3日、「平和といのちと人権を!憲法大行動」が、国会議事堂正門前とインターネットのオンライン中継で開かれます。ゲストスピーカーとして参加する、江戸文化研究者の田中優子さん(法政大学前総長)に、自民党がねらう改憲の動き、コロナ禍が浮かび上がらせた日本国憲法の価値について聞きました。   (荒金哲)

【東京民報2021年5月2日・9日合併号】

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