大塚大勝軒パワハラ裁判 法定三帳簿の未整理が発覚 「企業として大問題」〈2022年5月1日・8 日合併号より〉

 テレビのグルメ番組にも度々登場する有名ラーメン店「大塚大勝軒」など、複数店舗を運営する大勝軒TOKYO(本社・豊島区)の代表取締役・田内川真介氏から、スタンガンを当てるよう強要されるなど、せい惨なパワーハラスメント(パワハラ)を受けていたとして、元店長の男性(26歳)が慰謝料と未払い残業代の支払いを求めた訴訟の第3回口頭弁論が4月15日、東京地裁で行われました。この日、田内川氏が元店長の加盟する首都圏青年ユニオン主催の記者会見での内容が名誉棄損に当たるとして、ユニオンではなく元店長を東京地裁に訴えたことが明らかになりました。

元店長がパワハラを告発する大塚大勝軒の店舗=豊島区

 同日までに裁判長の求めで、被告人の田内川氏側が元店長の勤務の記録として裁判所に提出したのは〝営業日報〟でした。これに対し、元店長の代理人弁護士は「日報から個人の労働時間の突き合わせを試みたが、開店前に勤務していたスープの仕込みに従事する人などが未記入である」などと指摘。「賃金台帳などが出てくると思っていた」と発言しました。

 裁判長が賃金台帳や出勤簿について問うと、田内川氏の代理人弁護士は「ありません」と回答しかけましたが、慌ててそれを打ち消すように「整理できていません」と答えました。元店長の代理人弁護士は「こちらの主張とは違い、仕事を休んでいたなどと主張するなら、きちんとした根拠が必要だ」と述べました。

 続いて元店長は裁判長の交代を受けて陳述。「自分は店長とはいっても名ばかりで裁量権もなければ、給与も他の社員と同じだった」と証言。「田内川氏側が主張する私のパワハラや横領についてはしていません。事実と違う反論や陳述に心が折れそうになった。暴力で人を支配する田内川氏は許されない」と語気を強めました。

もてはやすメディアにも責任

 弁論を終え、弁護団は田内川氏が元店長に990万円の賠償を求めて名誉棄損で訴えてきたことを公表しました。「会社がハラスメントをしていたとか、残業代を支払わないということを知らせるのは公共の目的がある。真実性があるので名誉棄損に当たらない」と主張。「残業代を支払わないなどは懲役刑にもなる問題で、タイムカードや出勤簿などがないということは驚きだ。メディアに登場するような人気店の経営者が法を守る意識に欠けている」と話しました。

 首都圏青年ユニオンの役員は、田内川氏がユニオンではなく、個人を名誉棄損で訴えたことについて「個人攻撃という卑劣な行為に及んだともいえる」と語りました。

 労働基準法では雇用者に法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)の作成・保管・保存が義務付けています。違反の場合の罰則も定められています。また過去の出勤簿や賃金台帳をすぐに提出できるのは当然で、勤怠管理や賃金計算、社会保険などの手続きは何を根拠にしておこなってきたのか極めて不透明です。

 「大勝軒の味と心を守って」と公言し、師匠の故郷の志賀高原に新規出店するなど意欲的に事業展開を行う陰で、法令無視と暴力での支配が横行していたことが疑われます。

 元店長の応援に駆け付けた男性は「企業コンプライアンス(法令順守)意識のかけらもない人間と企業を、もてはやして取り上げるメディアの責任は重い」と怒りを吐き出しました。

保存が義務、処理に疑い

税理士 浦野広明さん

浦野広明さん

 企業会計で一番大切な原則は真実な報告を提供するものでなくてはならないことです。それを補完するのに正規の簿記の原則があり、すべての取引を帳簿に記載しなくはなりません。さらに継続性の原則として、一度採用された会計方針について、毎期継続して適用とするものとされています。

 こうした記帳の基礎となる原始記録に人件費ならば、賃金台帳が備え付けられていなくてはいけません。労働基準法によって作成責任がある法定三帳簿のひとつでもある賃金台帳は人件費の支払い事実を担保するものであり、5年の保存期間が義務付けされています。これが「ない」あるいは「整理されていない」とするならば会計処理に疑いが生じるわけで、その法人は極めてずさんな経理を行っているといっても差し支えないと考えられます。(立正大学法制研究所特別研究員)

〈2022年5月1日・8日合併号より〉

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