街角の小さな旅31 重要文化財の「秘密」に出会う 東京国立近代美術館と千鳥ヶ淵の桜
- 2023/3/1
- 街角の小さな旅

地下鉄東西線の竹橋駅から地上に出ると旧江戸城の大手濠ほりが迎えてくれます。東京国立近代美術館はそのお濠にかかる竹橋を渡ったすぐ先にあります。

近代美術は西欧において産業革命後の資本主義の誕生のもとで、それまでの封建領主や教会などの庇護ひごのもとにあった伝統芸術から脱皮、個の確立、自由・博愛、合理主義などの思潮を背景に創出された芸術で、日本では幕末の開国、西欧化のもとで形づくられました。
近代美術館は「同時代の美術をいつでも見ることのできる国立の展示施設」として開設され、日本が封建制を脱皮し近代化に踏みだした19世紀末から今日にいたるまでの国重要文化財18点を含む1万3000点を超える洋画、日本画、版画、彫刻、写真、映像などの多様なジャンルの作品を収蔵、展示しています。
同館ではこれらの収蔵作品のなかから約200点を展覧する「MOMATコレクション」展や特定のテーマにもとづいた企画展を開催。和田三造「南風」、川合玉堂「行く春」などの初期の洋画や日本画、荻原碌山の彫刻、棟方志功の版画、さらには現代アートの作品に出会うことが出来ます。
17日からは「MOMATコレクション」展及び51点の展示作品すべてが国重要文化財という史上初の展覧会、「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」が開催されます。
国立公文書館
美術館の隣に日本学術会議の勧告にもとづいて設置された国立公文書館があります。公文書館は図書館、博物館とならんで文化施設の三本柱とされているもので、国民共通の財産である国の機関が作成した公文書を保存、展示。誰でも閲覧できます。
公文書館では公文書でたどる近代日本のあゆみの基本展示とともに、「衛生のはじまり、明治政府とコレラのたたかい」が3月12日まで開催されています。西欧から持ちこまれたコレラに脅かされた日本社会がこれに立ち向かい、公衆衛生を確立していく過程の資料が展示されており、新型コロナ禍で公衆衛生のとりくみをなおざりにしてきた国や東京都の姿勢を問うものとなっています。
旧江戸城
竹橋からすこし大手壕を下ったところに平川門があります。平川門は旧江戸城でただ一つ城門一式(高麗門、渡櫓門、木橋)が残されているところで、時代劇でよく登場する大奥に近く、お局(つぼね)門とも呼ばれました。春日局が門限に遅れ一夜、駕籠かごで過ごした門でもあります。またこの門は死者を通す不浄門とも呼ばれ、生身で門から出されたのは忠臣蔵の浅野内匠頭と歌舞伎役者との不祥事を起こした大奥の絵島の二人だけです。

江戸開府当時、平川門辺りまで日比谷入江が入り込んでいました。歩みを進めるとその江戸前の海を臨んだ汐見坂があり、春の訪れを告げる梅林坂があります。
また、竹橋に歴史を刻むものが竹橋事件(1878年)です。永く歴史の闇に閉ざされていた事件で、倒幕後、天皇衛護のために組織された近衛兵が新政権に対する不満、徴兵制への反発などを背景に起こした反乱事件。徴兵で集められた下級兵士53人がただちに極刑に付されました。そして事件をきっかけに軍人勅諭の制定、憲兵の創設など軍事国家化が急ピッチでおこなわれ、日本は軍国主義の道を突き進みました。

もうすぐ桜の季節。桜の名所・千鳥ヶ淵には美術館から北の丸公園もしくは千鳥ヶ淵さんぽみちをたどってすすみます。お濠沿いには1000本の桜があり、千鳥ヶ淵緑道と同公園には桜のトンネル。また、桜と菜の花、花大根の彩り、満開を過ぎても散った桜がお濠の水面を覆う零こぼれ桜も千鳥ヶ淵ならではの楽しみです。今月下旬から3年ぶりの「千代田区さくらまつり」。夜桜のライトアップやボートの営業延長がおこなわれます。
末延渥史
(東京民報2023年3月5日号より)