【書評】明日へ生きる希望が湧く 『山本周五郎 人情ものがたり 市井篇/武家篇』 山本周五郎 著

 この本は、良心的な心の糧になる本を出し続けている本の泉社が、山本周五郎の「人情ものがたり」を描いた作品を「市井篇」六作、「武家篇」九作に分けてオリジナル編集した短編小説集です。

 人生にはどうしようもない辛い事や悲しい事がたくさんあります。この十五作は共通してそんな庶民、武士とその妻女の心に寄り添い、その心根をしみじみと描き出しています。

本の泉社 2022年 1200円(税込) やまもと・しゅうごろう 1903年山梨県生まれ。1943年に『日本婦道記』で直木賞に推薦されますが辞退。1967年、63歳で死去

 市井篇の「おたふく」では、彫金彫り職人貞二郎の女房おしずのひたむきな愛。「ちゃん」では、安物が歓迎されている時勢から取り残されていても伝統の「五桐火鉢(ごとうひばち)」づくりをする重吉とその家族の貧乏生活とほのぼのとした家族の絆。

 武家篇では、困っている人々にやさしい武士と妻女を登場させています。

 「雨あがる」の浪人三沢伊兵衛は、半月も雨が降り続く梅雨時の木賃宿で客たちが仕事も出来ず困り果てている時、妻からきつく禁止されていた武術の賭け試合をして、その金で米、魚、酒をたくさん買い込んで泊まり客の気分を慰めます。この賭け試合のために仕官口がだめになるのですが、泊まり客たちのために賭けをしたことを知る妻は、「これからはいつでも賭け試合をなすって下さい」「気の毒な方たちを喜ばせてあげて下さいまし」と言います。

 「裏の木戸は開いている」の高林喜兵衛は、困っている人を助けようと、裏木戸に鍵をつけず、誰でも持っていけるように小さな木箱に金を入れおり、返しても良いし、返さなくても仕方がないと思っています。

 周五郎の眼は困っている人にやさしく、その作品はどんな苦境の中でも希望の光を注いでいます。

 国連憲章に違反するロシアの侵略、物価上昇と暮らしの困難、コロナ禍の不安…毎日のニュースを見ると気持が暗くなります。庶民の不安を解決する政治がますます必要となっていますが、政治だけでなく明日へ生きる希望が湧く読み物がほしいと思っていました。その気持ちに応えてくれる本です。

(柏木新・話芸史研究家)

(東京民報2022年6月19日号より)

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