「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」をご存知でしょうか。1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議で提唱された概念で、「性と生殖に関する健康と権利」と訳されています。セクシュアリティと生殖のあらゆる側面で、身体的、精神的、社会的な幸福が実現できている状態を指し、また、自分の身体に関することを自分で決められる、そのために必要な情報と手段を得られる権利を意味しています。
しかし「にんしんSOS東京」に寄せられる相談者の声に触れる度に、「自分の身体に起こっていることを自己決定できない」日本社会の現実を思い知らされています。
公教育における包括的な性教育の不足、選択肢が限定的な上に高額な避妊方法、中絶における同意書や、妊娠・出産費用の自己負担の問題など、自己決定を阻害し、「妊娠葛藤」を強めている障壁の多くは、ジェンダーの視点が欠落した社会制度に起因したものです。これら障壁が取り除かれることなく再生産され続ける中で、「思いがけない妊娠」に対する社会の冷たい視線が強固に内在化されていく―ピッコラーレの活動に携わる中で、その構造の有り様が明確に見えてきました。
そして、このゆがんだ社会構造によって最も強い負の影響を受けているのは、10代を中心とした若年層であることに、そろそろ社会全体が気づかなければなりません。これら構造は、本来であれば、社会に守られるべき立場にある若年に対してより強い懲罰を課す仕組みとなって作用し、彼らを絶望するほどの孤立へと追い詰めています。
ピッコラーレは先日、「妊娠葛藤白書~にんしんSOS東京の現場から2015~2019」(https://piccolare.shop/)を発行しました。現場の相談支援員が約1年半の歳月をかけて、15年の開設から19年まで「にんしんSOS東京」に寄せられた2919人の声一つ一つと向き合い、個人が特定されないようデータを加工・整理・分析し、まとめました。
本書を通して、「妊娠葛藤」を生み出す社会的要因―SRHRが大きく侵害された日本の現状や、妊娠をするそのずっと前から、いくつもの困難を抱えながら生きてきた10代・20代の若年の背景にある、貧困、虐待、暴力といった社会的課題など―を改めてご理解いただき、ピッコラーレのビジョンである『「にんしん」をきっかけに、誰もが孤立することなく、自由に幸せに生きていける社会の実現』を目指して、ともにソーシャルアクションを起こす一員になっていただけると幸いです。(終わり=特定非営利活動法人ピッコラーレ 事務局長 小野晴香)
(東京民報2021年4月4日号より)